第8回 税理士試験対策

 コンチキチン… 祇園祭のお囃子が聞こえる。専門学校の窓の外には函谷鉾と、祭見物に訪れた人の波。税理士試験受験生の僕たちは、つかの間の休息にと屋台でラムネを買い、また教室に戻る。ひたすらペンを走らせる。

 試験まであとわずか。こんな生活がいつまで続くのだろう。今年は税法2科目の受験。受かったとしてもまだ来年も続けなければいけない。働きながら、始業前に答練、昼休みには理論の暗記、夕方定時後専門学校に行って答練、会社に戻って残業。土日もほぼ専門学校の自習室。模試の結果はボーダーライン。不安ばかりが募る…。

 試験は自分との戦いですね。多くの受験生の方が立場は違うけれど同じような思いを抱いていることでしょう。しかし残された時間は平等です。この時間をどう使うのか、最後の1週間をどのように過ごしたか、皆さんの参考になればと思います。

 まずは、不安の解消。漠然とした不安には、数字に基づく安心材料を考えてみます。たとえば今年、税法を受けると仮定します。前年の法人税法の合格率は14.7%、その前年は11.6%ですね。この数字だけを見ると、10人に1人ないし2人しか受からない試験かと思ってしまいますが、まだ勉強を始めたばかりの方、願書は出したけど試しに受験する方が相当数います。仮にそういう方が3分の1と考えると合格率は3倍となります。また更に合格レベルに達している人の中での戦いとなると真の合格率は2分の1くらいでしょう。これなら何とかなりそうだと思いませんか。(と思い込んでいました)

 孫子の兵法では「悲観的に準備し、楽観的に行動する」と言われますが、ここまで来たら「いつもの通り準備し、楽観的に行動する」ことが大事だと思います。思い返すとこんなことをしていたなと。

体調を最高のコンディションに持っていくこと
ルーティンを決めること
最後まであきらめないこと
時間配分の練習をすること
見たことの無い問題が出ることも想定しておくこと

はアスリートにも共通するポイントですね。真夏の体力を消耗する時期に、最高のパフォーマンスを発揮するためにはまず体力。睡眠と食事が基本です。また、試験会場は事前に下見をしておくこと。試験の時間に合わせて模擬試験をやってみるなど、本番と似た環境を作って練習しておくこともいいでしょう。

これもアスリートに学ぶところが大きいと思います。受験生時代は、理論問題集の解答を妻にカセットテープ(昭和の時代ですね)に吹き込んでもらい、移動の時間は常に聞いてきました。受験会場に行くときもそれを聞いていました。受験当日は、「朝神社に行って神頼みをする」「一人車の中で大声で気合を入れる」。(税理士試験と会計士試験合わせると8年受けています)試験開始直前で問題用紙が配られる時には深呼吸をして、家族や親しい人の顔を思い浮かべる。なんでも構わないので、これをすると心が落ち着くというものや行動を見つけられるといいですね。

私の試験仲間では、理論で模範解答とは反対のことを書いて、絶対落ちたと思っていたのに受かっていたという方が何人かいます。理論の試験は、知識の正確性とその知識をどう運用しているかを問われているものと考えられます。途中で間違いに気が付いても決してあきらめないことです。完ぺきに回答できる人はそれこそ数えるほどしかないわけですから。

どんな試験も同じと思いますが、問題用紙を見てすぐ、どういう順番で回答するのか、どの問題にどれだけ時間をかけるのかを判断しなければなりません。直前の頭の整理では、過去の模擬試験の問題をみて、時間配分のシミュレーションをしてみること、これは、短時間でもできるトレーニングです。

また、時には過去に見たことのない問題や様式が出ることもあります。これは出題者側のテクニックです。膨大な回答を採点する側としては、回答者を振るい落とすのに奇抜な問題を提示して反応を見るということがあります。そんな問題は誰も経験したことがないわけですから、冷静になって自分の持てる知識を展開するだけです。想定外の問題が出ることを想定しておく。それから、今から新しいことに手を付けるのはやめましょう。

 税理士試験受験の時は、決して模範的な受験生ではなかったと思います。専門学校でも授業中は寝ているし、模擬試験で上位になったこともない。でもやるだけのことをやったわけですから、あとは開き直りです。

 会計士試験の会場に向かう朝、黒猫が前を横切りました。一瞬、沖田総司を思い浮かべてしまいましたが、「これで通れば黒猫はラッキーアイテムになる」と言い聞かせ、会場に向かったのを覚えています。(最近ネットで調べたら黒猫は幸運の使者とみる方もあるようです)何か不安なことが起こっても、それは幸運の前触れだと思うと気持ちが楽になるでしょう。

 毎年なぜこんな時期に試験をするんだろうと思いますね。税理士試験終わってからでは海にも行けないし、楽しい夏のイベントは大体終わっているし。でも試験が終わったら、自分を支えてくれた家族や職場の同僚、一緒に戦った仲間たちとゆっくり過ごせる楽しい時間が待っています。その時まであと一息。この暑さとコロナに負けず、戦う皆さんの姿はアスリート同様、輝いて見えます。一緒に最後まで頑張りましょう!